初恋

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「取材の内容はなんですか?」 最近、研究所の論文改ざん等 俺には無縁の話題が巷を賑わせているけれど、そんな部類のネタかな?と思っていた。 村上さんは、 やっぱり面倒臭そうに舌打ちをして、 「その研究所で、とんでもないウィルスが研究されてる証拠を突き止めるんだよ」 と、 俺にバッグから取り出したタブレットを渡して、 データを見せてくれた。 「…………この人たちは?」 タブレットの画面に出てきた写真。 外国人の写真と、 日本人男と、 やけに美人な白衣姿の女。 「エイドリアン・スミス博士に井上博士、そして篠崎研究員だよ」 「既に職員の写真があるなら俺は必要なくないですか?」 「これは他社の情報をコピーしてるから。記事には使えないし、うちのはうちので要る。実際 通勤時間に出入りする職員に彼らの姿はない。夜中から張ってる連中と交代だ」 村上さんはポケットからタバコを取り出して、 俺にはお構いなしにスパスパ吸い始める。 「夜中から? そこまでするネタが隠れてるんですか?どんなウィルスを研究してるんです?」 窓を開けて、 咳き込むのを我慢して先輩の返事を待っていた。 いずれにせよ、 俺には無縁の話。 『研究員の写真取れたらそれでいいんだろ?』 と、早く別件の仕事をしたいとさえ思う生意気な俺がいた。 「生物兵器と言われるやつだ」 その、 時代錯誤な言葉を、耳にするまでは。
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