初恋

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「風呂……はママと入りな」 一緒に遊んだりするのはいいけど、 風呂となると難しい。 「カズヤと風呂で遊ぶー」 「俺、風呂では人工オナラとかしか遊び方知らねーもん」 夕飯の片付けをしていた雪さんが、クスクス笑いながら、 「それでもいいから、よかったら入ってあげて」 と、 菜月と俺のタオル類を用意してくれた。 「新しい男性用下着も運良くあったの。」 「……マジで」 ここまで丁寧なお客様扱いされると 入らないわけにはいかない。 「菜月は自分で頭洗えるのよ」 雪さんが少しはラクできるならいいか、と 俺は菜月と風呂に入る。 「そう、12時くらいになるのね。もしかしたら私達も和哉君も寝てるかもしれない。」 そんな彼女の声が廊下から聞こえてきた。 「カズヤはパパと友達なの?それともママのお友だちなの?」 雪さんの声に耳を澄ましていた俺に 菜月はアヒルで遊びながら、上手なお喋りで、大人を困らせる事を聞いてくる。 「……どっちとも、だよ」 本来、 絶対に交流なんか持たない両親の不倫相手達。 今、こうして俺が慕うように時々訪ねるのは、 「カズヤは結婚しないの?」  水城ユウが、俺に写真の良さを教えてくれたことと、 「俺、まだ子供だから」 親の起こした事件で、晒し者になった俺を、 全身で守ってくれようとした雪さんの優しさを、 ……知ってしまったから。 俺の記憶に 消えることのない事件が、 また、ぼんやりと姿を現すことがある。
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