初恋

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宅配便会社のコールセンターの所長をしていた父さん。 部下のオペレーターと不倫をし、 それが母さんにバレて家の中でも頻繁に離婚話が持ち上がっていた。 『別れてくれ』 父さんは、 家庭よりも、 その雪という名前の不倫相手を選ぼうとしていた。 『あんな平凡な女のどこがいいの?!絶対に別れない!』 妹の律子はまだ小学生。 自分の部屋にまで聞こえてくる言い争いに、震えるように涙を堪えているようだった。 まるで、 捨てられる寸前の段ボールの中の子犬のように、 その場所から動かなかった。 ____その妹は、 現在 地元で祖父母の家から私立の高校へ通っている。 この間は電話で 卒業後は俺と同様、上京したいのだと言っていた。 『何で、お兄ちゃんはあの二人を許せるの?』 今も 良く聞かれる。 『お父さんが一生を棒に振る原因になった女と、 母さんを狂わせた男と、 その二人が幸せになること、どうして許せるの?!』 ………………律子は 知らないんだ。 俺はまだ中学生だったけれど、 二人がお互いの過ちに苦しみながら、 それでも惹かれ合っていく後ろ姿を 垣間見て知ってしまったから。 だから、 確かに苦しくもあった思い出を胸に閉じ込めて 「…………和哉君?大丈夫?」 俺は、 父さんが亡くなるまで愛していた人を 追いかけて東京までやって来たんだ。 ……………それは、憎しみから反転した恋心だった。
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