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「無理することないよ。
君は気にしなくていい。後のことは僕にまかせてくれたらいい。」
これまでの苦労を知ってる。
もし、欠員ができたら、アンケート用紙も書き直さないといけないし、進行にも影響が出る。
皆んなに迷惑を掛ける事は目に見えていた。
頭の中で、何度もリピートされる大森さんの言葉。
“覚悟が足りない。
イベントを成功させようとする、覚悟が足りない。”
ずっと、そうだった。
何をするにも真剣じゃないわけじゃない
じゃないけど、私はどこか他人事だった。
会社に対しても、仕事に対しても
だから、平気で無理だって言えちゃうんだ。
課長に甘えてちゃいけない。
一番成功したいのは、課長なのに、私みたいなモノの為に多くのことを妥協させちゃいけない。
そう思ったらいてもたってもいられなくて、勝手に口が動いていた。
「本当に違うんです。転んじゃったんです。思ったより痛くて泣いちゃったんです。
…私、やれます! 私でよければ、やらせてください!」
泣き腫らした不細工な顔を、課長に真っ直ぐにむけた。
課長は、少しだけびっくりして瞳を大きく開いた。
私は、勢い良く課長にお辞儀をすると、化粧室の方向に急ぎ足で向かう。
「井川さん。」
急いで向かう私の背中を、課長が呼び止める。
私が振り返ると、とびっきりの優しい顔をした課長がニコッと笑った。
「ありがとう!
それに、それ、君にとっても似合ってる」
そう言いながら、課長は首元を飾っているネックレスを指差す。
私は、その一言でボンと顔を赤くした。
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