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私の様子が急変したことに気付いたのか、米澤さんは疑わしい顔をした。そして、そっと私の視線の先を追う。
そしてふんと一言漏らすと、怪しく口角を上げた。
「何? 傷ついてるの?」
何て思いやりの欠片もない言葉なんだろう。私の心をその言葉は、持っている威力通り突き刺した。いつもは鎧を被って、幾分その威力を和らげようと心が働くのに、今に限ってそれが機能しない。ダイレクトに突き刺さる。
どうしよう、泣きそうだ。こんな男の前で。
何が私の涙腺を刺激しているのかなんてわからない。課長が私以外の人と手を握っていること?米澤さんの酷い言葉のせい?
向こうで課長と篠さんが、楽しそうに歩いている。綺麗なコスモスが鮮やかで、それゆえ残酷だ。
私とも手を繋いだ癖に、そうやって篠さんとも繋げるんだ。そう思ってしまう自分に蓋ができない。
最低。
「何? 言葉もでない? さっきの勢いはどうした?」
もう、米澤さんの言っていることは頭に入らなかった。その時、気付いてしまった。
うんうん、本当は、始めから気付いていたんだ。
課長が好きだ。
でも認められなかった。だって、きっと課長を好きになるのは、傷ついてしまうことを意味しているって、本能で嗅ぎ分ける。私は傷つけられる。
気持ちが溢れてくる。あなたが好きだ。止められない。
視界の端で、二人を捕らえ、こらえられない涙が瞳いっぱい溜まってくる。
見開いた瞳を思いっきり開いた。閉じた瞬間に、それは重力に逆らわず落ちてしまう。
こんな人の前で泣きたくない。
見開いた目に力を込めて、米澤さんを睨み付けた。
「外野は黙ってて!」
それは、私の精一杯だ。それ以上の言葉は出てこない。
米澤さんは、もう何も言わなかった。
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