第3章

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そんな少し平穏で落ち着き始めたある日のことだった。仕事場に電話が入った。先にとったのは新主任の先輩だった。電話をとるなり、見えない相手にペコペコと頭を下げ始める、滑稽。するといきなりボタンを押して電話を置き、私に「内線、取って」と言った。私にお偉いさんの知り合いがいただろうか。はたまた、何か悪いことでもしただろうか。ぐるぐる脳内を疑問が駆け巡るが、とりあえず電話を取った。 「お電話、代わりました…」 「もしもし、私、相川静江と申します」 若い女性の声だった。そして、聞き覚えのある名前。 「前主任、相川の妻です」 ツーっと、背中に悪寒が走った。額を流れる一筋の汗。暑くて出たものではないと判断するのにどれくらいかかっただろうか。なんとなく、予感はしていた。いつかはバレるだろうと。でも、いざその瞬間になると、聞き苦しい言い訳ばかりが頭の中を素通りする。キャッチ&リリース。捕まえられない。だって、まともなものがないから。
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