第3章

6/17
前へ
/58ページ
次へ
ソファに腰をおろすと、向かい側の小さな座椅子に男の子が座った。彼が言っていた、確か名前は「義人君」だった。明らかに機嫌が悪そうだ。なのに腹が立たないのは、驚くくらい彼に顔立ちが似ているからだろう。小学生とは思えないくらい大人っぽい顔だ。「モテるんだろうな」そう思った。 「モテるよ、僕。昨日も告白されたもん」 「え?」 「おねーさんさ、わかりやすいって言われない?小声でボソッて言ってたよ、今」 机に頬杖をつき、ブスーっとした顔で指摘する。 「そ、そんなことないよ。多分、義人君がカッコ良すぎて、つい声に出ちゃったのかも」 「…なんで僕の名前、わかるの?」 義人君がニヤリとした。一瞬、顔が引きつる、なんて鋭い子なんだろう。必死で言い訳を考えた。 「おねーさんさ、パパの前の彼女でしょ?パパの会社の部下でしょ?」 静江に聞いたのだろうか。すると、義人君は立ち上がり、トコトコと移動して私の隣にストンと座った。 「パパと内緒の話したんだ。教えてくれたの。パパ、ママに内緒で他に付き合ってるーって。僕が1年生くらいのとき」 私の耳元に、ヒソヒソと話しかけてきた。静江は隣のキッチンで準備をしているらしく、聞こえないと思うが、念のためだろう。子供らしい仕草で、なんとなく落ち着いた。あのままだったら、彼と話しているみたいだったからだ。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加