明日、嫁に行きます!

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 ピクッとこめかみが引き攣った。 「祖母が本当に感謝していましてね。さっきの態度は僕が悪かった」  そういって、彼は頭を下げた。  あ、そういえばこの男の名前聞いてなかった。  まあ、関係ないか。聞いたってこの先会うこともないだろうし。 「いえ。ちょっと腹立ちましたけど、こちらこそ無礼な態度でごめんなさい」  にっこり。  皆に可愛いと言われてきた作り笑いを顔に浮かべて、「では、さよなら」と足早にその場を立ち去ろうとする、私の腕がガシッと掴まれた。 「綺麗な笑顔ですね。……作り物じみて気に入らないが」  皮肉げに唇を歪ませながら吐き捨てる男に、一瞬呆気にとられてしまった。  そんなこと、初めて言われた。  この作り物の笑顔を顔に貼り付けていたら、怒られたり叩かれたりすることもなかったから。  平穏に過ごすため身につけた、私の唯一の鎧が『偽りの笑顔』。  お前はただ何もせず笑っていたらいい。  そう言われ続けてきた。  だから、感情を殺して、ただ笑っていた。  それが気に入らないなんて、じゃあどうしろというのか。  偽りでない本当の笑顔なんて、心を許した人にしか見せられない。  あんたになんか絶対見せない。むっつりと剣呑に目を眇め、男を見据えた。  反発心と元来の負けん気がムクムクと込み上げてくる。 「なんで貴方に本当の笑顔見せなきゃならないんですか」  そう言って、掴まれた腕を乱暴に振り払った。  眼鏡の奥の双眸が驚きで見開かれる。  不機嫌さ全開な私を見て「毛を逆立てた猫みたい」そう言って男は苦笑した。 「こんな所で油売ってないで、さっさとお婆さんの所に戻ってあげて下さい。本当に具合が悪そうだったのよ」  貴方のこと可愛い孫って愛しげに言ってた人なんだから、早く戻ってあげて欲しかった。 「お祖母さんは、今日ここへ来た目的が無事達成できたようなので、今ではすっかり元気を取り戻して、会場内をビール片手にかくしゃくと徘徊してましたよ。僕なんて無視です。だから大丈夫。心配してくれてありがとう。是非君にお礼がしたいのですが、この後、」 「ごめんなさいお断りします」  ぴしゃりとすげなく断る。  また彼は虚を突かれたような顔をした。  大人な雰囲気を漂わせた顔が、まるで少年みたいに見えてしまう。純粋な驚きの顔だった。 「……君、僕が誰だか知ってますか?」
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