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何かとんでもない誤解があって、こんな事態に陥ったに違いない。
なにせ初対面の印象が悪かった。彼の横柄な態度に腹を立て、笑顔のままずっと睨みつけていたんだから。
彼の中で私の印象は最悪なはず。
あれだけ無礼で生意気な態度をとっていた私を、妻に望むなんてあり得ない。
だから、予期せぬ不測の事態が起こったんだと私は考えた。
もしかして、あの時の報復、嫌がらせなのかと、そんな不安が頭を掠める。
私は頭を振って不安を追い出し、よしっと自分に活を入れた。
とにかく、どうしてこんなことになったのか詳しいことを聞かねば話は進まない。
私は不安を押し殺し、覚悟を決めて車へと足を進めた。
すると、訝しむ顔を鷹城さんへと向けた浩紀が、私の肩をグイッと掴んで引き留めた。
「おい、寧音。大丈夫なのかよ、着いていって」
瞬間、表情の乏しい鷹城さんの顔に冷たい怒りが宿る。荒々しく大股で近付いてきたと思ったら、浩紀の腕を叩き落とし、私の背中に手を添え車へと歩き出した。
鷹城さんのいきなりな行動に、私はポカンとなる。
そして、鷹城さんは温度の消えた冷たい双眸で浩紀を一瞥すると、
「ご心配なく。彼女は僕の妻になる女性。今後、他の男が気安く触れてもらっては困ります」
鷹城さんは牽制するように言い放った。
いきなり投下された爆弾に、私達の口はあんぐりと開いたまま。
そんな私達を見比べて、鷹城さんの顔に底意地の悪い笑みが浮かぶ。
「は、はあ!?」
愕然とした表情で顔面蒼白になる浩紀を置いて、素早く私を助手席へと追いやった鷹城さんは、もう用はないとばかりに車を発進させてしまった。
「浩紀、固まってたわ。月曜から大学行けないじゃない。鷹城さんどうしてくれるの」
ハンドル捌きまで様になるイヤミな男に、私はむっつりとした顔で非難の声をあげる。
「真実を言ったまで」
一言でばっさり切り捨てられて、それのどこが真実なのだとムムムッと眉間に深い皺が刻まれてゆく。
「……私、貴方の嫁になるって了承してません」
「おや? いいんですか。ご家族が路頭に迷っても」
ニヤッと腹黒い笑みを浮かべながら非道な言葉を発する男に、頭が沸騰しそうになる。
「……脅迫するの? 外見通り性格悪いんですね」
「貴女も。外見通り跳ねっ返りだ」
「私、誰にもそんなこと言われたことないわ」
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