明日、嫁に行きます!

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 いや、両親にはしょっちゅう言われているけれど。  あえてこの男の言葉を肯定することは言うまい。  癪だから。 「だったら、知ることが出来てよかったですね」 「ムカつく。貴方、あんな優しげなお婆さんの孫とは思えない」  根性悪な男を前に、私の中から年上の人間に対する尊敬とか丁寧な言葉遣いとかが全部ぶっとんだ。 「ああ、あの人、相当策士ですから。気をつけてくださいね」  策士? まさか。  あんな穏やかに微笑む人が、私の中の闇を一発で見抜いた人が、そんなはずないじゃない。  まるで親しい身内を貶されたような、嫌な気分になる。 「だいたい、あんたみたいに女に困ってなさそうな男が、なんで私なわけ?」  鷹城家の嫁になりたがる女なんて、掃いて捨てるほどいそうだ。  男前でお金持ちってだけで、女に不自由することはまずないだろう。  その証拠に、パーティー会場でも綺麗な女性達に囲まれたハーレム状態だったじゃない。  それなのに、なぜ?  そう思った時、ハッと気付く。  お婆さん言ってた。  孫は女性を信じられない。女性不信なんだって。 「確かに。寄ってくる女性は大勢いますね」  自慢か。  そう言ってやろうとして口をつぐんだ。 「ただ、それだけです」  鷹城さん、ひどく悲しそうな顔をしてたから。 「……そう。お金持ちでハンサムなのも困りものね」 「ええ、お互い様ですね。だからこそ、僕は貴女がいいんです」 「……はい?」  なぜ、がない。  なぜ私がいいというのか。  結論だけもらっても、そこに至る具体的な理由がない。  言ってることが一方的過ぎてムカムカする。 「意味わかんない。なに? 一目惚れってヤツ? この顔が気に入ったの?」  嘲るように言ってやる。  もし答えがイエスだったらぶん殴ってやろうと、私は膝の上で拳を固めた。 「顔? 貴女なにか勘違いしてませんか」  心外だとばかりに、眼鏡の奥の双眸が細められる。 「は?」 「貴女なんてそれほどのものじゃないでしょう。芸能界なんて貴女程度の顔ならゴロゴロいますよ」  私程度がゴロゴロいるって。  まさか容姿でここまで貶されるとは思ってもみなかった。  驚いて相手の顔をまじまじと見つめてしまう。 「僕は仕事の関係上、芸能界に知り合いは多いんです」
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