明日、嫁に行きます!

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 ――――寧音さんの顔なんてたいしたことない。貴女など、ただの跳ねっ返りでじゃじゃ馬なだけじゃないですか。  そう、嘘のみえない瞳でいうものだから。 「あっははは! あんたみたいな男、初めてだわ!」  おかしくて。  容姿を否定されたことが、私にとっては嬉しくて。  容姿だけしか取り柄のないお人形じゃないんだと、ただの嘲りの言葉だったけど私自身を見てくれたように感じて嬉しかった。 「ただ、貴女のそのすみれ色の瞳は、この上なく美しいと思います」  その言葉に、ドキッとした。  私が唯一、自分の中で美しいと思っているものだったから。  母と、そしてフランスにいるお祖母ちゃんと同じ、珍しい藤の花の色。 「まるでアメジスト(紫水晶)のようです」  そう言って、鷹城さんはにこりと笑った。 「……うっ」  ……不覚だわ。今ちょっとドキッとしちゃったじゃない。  熱くなる頬を誤魔化すように、手のひらでゴシゴシとこする。 「っていうか……ここ、どこよ」  私はいつのまにか、知らない場所に連れてこられていた。  ここは湾岸線の傍。  少しだけ開いた窓からは、風に混じって潮の香りが漂ってくる。  そして、目の前には、巨大なタワーマンションがデンとそびえ立っていた。  てっきり自宅まで送ってくれるものとばかり思っていたんだけど、それは間違いだったようだ。 「僕のマンションですが」  ――――それがなにか?  そう堂々と言うものだから、呆気にとられてしまって次の言葉が出てこない。 「お父さんから聞いてませんか?」 「なにを?」 「花嫁修業の一環として、これから一緒に暮らしていただきます」  ナニ―――――っ!?  それこそ、人身御供ではないか?  ウチの親はなに考えてんだ!?  あまりの理不尽さに一瞬言葉を失ったが、次の瞬間、怒りが爆発した。 「バカ言わないでよ、なに考えてんの!? 会って間もない男となんて一緒に暮らせるわけないじゃない! 非常識だし不愉快だわ!」  ふつふつとした怒りを抱えたままきびすを返し、大通りに向かって歩き出そうとした時、頭上から降ってきた冷たい声に私の足がピタリと止まった。 「帰るんですか。本当に、それでいいんですか?」  ―――お前の家族の命がかかってるんだぞ。  そう言ってるでしょ、今。  脅かしてるんでしょ、射るように私を捉えたその眸で。
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