明日、嫁に行きます!

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「寧音(ねね)ちゃん、頼む! 嫁に行ってくれ!」  テーブルに手をついて頭を下げる父の言葉に、私は持っていたお箸をポロリと落とした。  今は晩御飯中で、いつも通りの夕食……のはずだった。 「お父さん、なんの冗談?」  ごめん、全然笑えない。  つまんでいた卵焼き、落としちゃったじゃない。  ムッとお父さんを睨んでみるんだけど、その顔は紙のように顔面蒼白で、まるでデスマスクみたいだった。  ただならぬ雰囲気に5人いる弟妹たちも、目を白黒させて固唾を呑んでいる。 「冗談じゃないんだ。このままじゃお父さん、会社が倒産した挙句に破産して……一家離散しかないんだぁぁ!」  わあっと泣き伏すお父さんに、さすがの私も動揺を隠せない。 「だから、なんで私の結婚と一家離散がつながるのよ」  だいたい私、大学一年のまだ18歳なんですけど。  ……突然嫁とか言われても。 「寧音ちゃん、あのね」  お父さんの背をなだめるようにさするお母さんが、綺麗な藤色の瞳を曇らせながら切り出してきた。 「知っての通り、お父さんの会社は鷹城(たかじょう)コンツェルンの孫会社でしょ? そこの若社長さんが、先日の創業80周年記念式典で、貴女を見初めたそうなのよ」  6人の子持ちとは思えないほどに悩ましげな視線を私に送ると、お母さんはほんのり頬を染めながらため息を吐く。 「貴女は私に似てとっても綺麗だから、仕方のないことね」  ――――お母さん、頼むから空気読んで。なに「当たり前」みたいな顔してんの。今は自画自賛するところじゃないでしょ。  すっかり呆れ顔になった私は、お母さんに白い目を向けた。 「確かに寧音は、フランス人のお祖母様に似て、日本人離れした綺麗な顔立ちだからね。まるで生きたフランス人形だもんね」  だからね、お父さんも。娘自慢するところでもないでしょ。完全に話ズレてんですけど。  うちのチビたちも口々に「わたしもママ似だから綺麗よー」とか「俺は父さん似だからボンヤリ顔なんだよなぁ」とか。  好き勝手に騒いでいるけれど。 「ちょっと! だから、なんでそれが私の結婚につながるっていうの!? 私まだ18なんだけど!」  マイペースな家族たちに、とうとう私はキレて叫んでしまった。 「まあ、私は貴女を17で産んだわよ」  にっこり笑う母に脱力してしまう。
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