明日、嫁に行きます!

21/155

10409人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
 口元をもごもごさせながら、私は呆然と汚部屋という名の腐界を眺めた。 「さて、貴女はこの惨状を見て、どう思いますか」  いきなり質問されて、ハッとなる。  どう思うかって?  そんなの決まってる。  大きく息を吸い込んだ私は、我慢していた口元を大解放した。 「あっははははははっ! 我慢できないっ、なにこの二面性、ウケる! イケメン社長で女にモテモテな完璧男が、ふ、くくっ! しかも『惨状』って自分で言ってるし! 自覚あるなら片付けなさいよ! あはははっ」  涙を流しながら笑い転げる私に、鷹城さんは観察するような目を向けてきて、やっぱりといった顔で頷いている。  それが何故かわからないけれど、とにかく私はこの汚部屋を何とかしなければと『しっかり者』の代名詞・長女気質な性格が『この男、ほっとけない』と判断し、世話焼きな性分に火がついた。  洗濯物とゴミとを仕分けながらやっとこさリビングに到着した時、さらに笑いのツボを刺激されて大爆笑してしまう。 「くはっ、ははは! ホント、ありえない!」  廊下と同じく、リビングも朽ち果てていた。  高級マンションとは思えないほどの見事な荒れっぷり。  パーティーでもハーレムを築くくらい女性にモテモテなイケメン男なのに、残念すぎるこの生態。  そろそろ我慢が限界だ。  笑いすぎて腸(はらわた)がねじ切れてしまいそう。  この部屋見たら、絶対女達逃げるわ。  間違いない。幼稚園児の弟よりも酷い有様。  こんな状況じゃなかったら、私だって尻尾巻いて逃げだしてる。  また緩みそうになる口元をなんとか引き締めて、そこら中に散乱する洗濯物を拾い集めた。  もくもくと作業に没頭する私に、鷹城さんは時計を見ながら誘いを掛けてきた。 「寧音さん、一時間後に食事に行きましょ、」 「無理ッ」  間髪入れずに即答する。 「……なぜ?」  ムッと眉根を寄せながら疑問を口にする鷹城さんに、 「この腐界を浄化してやるのよ!」  グーに握った拳を掲げて、私は高らかに宣言した。 「はあ。では、どうしましょうか」 「貴方、なんかコンビニでお弁当でも買ってきて」 「え? コンビニ、ですか? ……僕が?」  ぽかんとした顔で私を見るものだから、またも吹き出してしまう。  彼の無表情がことごとく崩れ去るのが楽しくて仕方ない。  唇をふふっと綻ばせる。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10409人が本棚に入れています
本棚に追加