明日、嫁に行きます!

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 この人はどうしてこう毎度毎度論点を逸らせてしまうのか。 「か―――っ! もう! 私を見初めたってだけで、なんでそんな訳のわからない事態になってるのかって聞いてんの?」  星一徹よろしく、ちゃぶ台ひっくり返してやろうか。  ちゃぶ台違うけど! 「寧音が20歳になったら鷹城に嫁ぐことを条件に、破産寸前のウチに融資してくださるって仰るんだよ、若社長様が」  若社長様って、どんだけへりくだってんの、お父さん。でも、ちょっと待ってよ。  お父さんは怒る私の顔色を覗いながら話すんだけど、それってつまり、人身御供ってやつなんじゃないの!?  胸に渦巻く不満が怒りにすり変わる。今なら噴火寸前なこの怒りでヒーロー的なナニかに変身できる! そう思うほどに私は怒髪天を突いた。 「融資ってそんなもん、銀行に頼めばいいじゃないの!?」 「断られちゃったのよねえ、ぜぇんぶ」  困ったわねぇ、と頬に手を当てて淡い微笑を浮かべるお母さん。  その瞳に浮かぶ鋭い光にゾクリと肩を竦ませた。 「行きなさい、寧音ちゃん」  氷の女王を思わせる冷たい双眸でお母さんは告げた。  ゴクリと喉が鳴る。  友達は皆、『綺麗で優しいお母さんがいて羨ましい』そう言うんだけれど、それは違うんだよ。  私はビクビクとした面持ちで、雅やかな笑みを刻むお母さんを凝視する。  気分はまるで、死刑判決を言い渡される囚人のようだった。 「私の愛しいお父さんのために、犠牲になって」  ……ちょっと待って、いま犠牲って言ったね? 犠牲を強いるって分かってて言ってるんだね? 貴女、本当に母親!?  いや、そんなヒトだって知ってたけども。  お母さんの世界は全て、愛するお父さんのために廻っているって。  常識外れな溺愛を見せる両親を、今まで星の数ほど、砂を吐くほど目の当たりにしてきたけれども! 貴女達の子供として、そのセリフ、断じて聞き捨てならない! 「ちょっとお母さん!! 何それ私のことはどうでもいいの!?」 「あら失礼ね。私もね、ちょっと気になってこっそり会いに行ってみたの。その社長さんにね。だって大事な娘を嫁がせることになるかもしれないんだもの。もし変な男だったら、誘惑して私に惚れさせて、融資でも何でもさせてやろうかと思ったんだけどね」
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