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私はドアノブに手をかけながら振り返った。
視線の先には鷹城さん。
ソファーにゆったりと腰掛けて、食後のコーヒーを飲みながら新聞チェックに勤しむ彼へと声を掛けた。
「鷹城さーん、寝室掃除したいから入らせてもらうよー」
「どうぞ」
入室の許可を得た私は、寝室の扉を開けた瞬間、『おおっ』と歓声を上げてしまった。
寝室は思ってた以上に綺麗だった。昨夜は円卓のランプしか付いていなかったからよく分からなかったけれど、よく見るとチリ一つ落ちていない。
さすがに寝るスペースは汚せないらしいわね。
普通の感覚を見いだせてちょっと安心した。
そう思って部屋へと足を踏み入れた時、ベッド脇にあるサイドボードに目が留まった。
あれ?
サイドボードの上に飾られたモノ。
薄汚れた小さな木彫りの天使像が、不釣り合いなほど立派なガラスケースの中に納められていたんだ。
鷹城さんが天使像?
なんか意外。
まじまじとその天使像をのぞき込んだ時、心の琴線に何かが触れた。
ちょっと待って。これ、どっかで見たことあるような……?
私の家はキリスト教だから、この天使像によく似たものは沢山ある。だから気になるんだろうか。
じっと天使像を見つめてみる。そして、あることに気付いた。
この天使像、フランスにいるお祖母ちゃんちにあるものにそっくりだった。
でも、お祖母ちゃんちにある天使像の多くは、世間一般に流通しているものではないから、この天使像とは無関係だとわかる。
あれは、お祖母ちゃんちのお隣さん、エメお爺ちゃんが趣味で作ったもの。だから、二つと同じものはない。
エメお爺ちゃんにもらった木彫りの天使像は、私の部屋にもたくさん置いてある。
それにしても似てる……。
特に天使像の顔。
エメお爺ちゃんが作る天使像の顔全ては、初恋の君に似せたものなんだ。
ちなみに、エメお爺ちゃんの初恋の君って私のお祖母ちゃんなんだけどね。
お祖母ちゃんは日本人であるお祖父ちゃんと結婚しちゃったから、結局フラれちゃったんだよね、エメお爺ちゃん。
なんて思いながら、後でこの天使像はどこで手に入れたのか鷹城さんに聞いてみようと、私はベッドから掛け布団を抱え上げ、仕事を再開した。
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