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このマンションのフロアにはゴミを捨てられるよう専用ダクトが備え付けられてあって、わざわざ階下に捨てに行かなくても、そこにゴミ袋を放り込めばいいだけだから楽ちんなんだ。
でも、こんなに楽ちんなのに、鷹城さんはそれすら出来ずに大量のゴミをため込んでいた。彼は不精者レベルを遙かに超えている気がする。
仕事は出来るかも知れないが、社会人として人間としてどうなのかと、鷹城さんと膝をつき合わせてサシで討論したくなった。
「けど、あんなんじゃ偽装とはいえ嫁は来ないかあ」
人ごとだけれどため息が漏れてしまう。
なにより彼はゲイ様だ。
本気で鷹城さんの嫁になりたいって女の人が現れても、彼の驚くべき生態を目の当たりにした瞬間、きっと尻尾を巻いて逃げてゆくだろう。
まるで鷹城さんの母親になったような気持ちで彼の将来を慮(おもんぱか)っていた時、玄関先で顔をのぞかせる鷹城さんに声を掛けられた。
「寧音、出掛けます。用意して下さい」
突然そう言われ、「え?」と目を丸くした。
「私も? ダメダメ、私は残るわよ。まだまだ仕事は山のようにあるんだもん」
「いえ、会社帰りに寧音と一緒に食事へ出かけたいのです。すぐに用意して下さい」
有無を言わさないその態度に若干ムカつきながらも、逆らったら後が怖そうなのでしぶしぶ従うことにした。
「服は普段着でいいですよ。必要なものは、僕が全てブティックで揃えさせますから」
彼の言葉にきょとんとしてしまう。
え、なに、セレブリティーな響きの単語。
『ブティック』って、高額なブランド商品しか置いてないんじゃないの?
特価・セール品なんて『なにそれ美味しいの?』って顔をして、『値切りなしなブランド価格ですが、なにか?』って威圧を掛けてくるところでしょ? 一般庶民お断りなイメージしかないんだけど。
偏見にまみれたド庶民以下な私は、ムッと眉間に皺を刻む。
ってか鷹城さん、貴方まさか、そんな場所に私を連れて行くつもりなの!?
――――ムリムリムリムリムリムリッ!!
しかも、『僕が揃えさせます』ってセリフ、なんか愛人に貢ぐ男みたいでイヤだ。
『贅沢は罪』と『自分のことは自分でやれ』をモットーにしてる大家族的思考が身体に染みついている私は、怒りの形相で否を唱えた。
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