10400人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
「……まあ、そうですね」
なに、中途半端なその間。気になるんですけど。
だいたいこんな綺麗な男、さすがの私も一回見たら覚えてるわ。
……でも、気になる。
もしかしてパーティー以前にどっかで会ったのかなと、記憶の引き出しを開けまくるんだけど、生憎該当のものは見つからない。
疑念を晴らすべく問いを口にしようとした時、
「さ、ここで着替えてもらいます」
会話はもう終わりとばかりに打ち切られてしまった。
ここで着替えてもらうって、え、なに?
車が止まった先に視線を流して、ギョッとした。
……マジデスカ。
そこはテレビでもよく紹介される、有名なブランド通りと呼ばれるお洒落な一画だった。
鷹城さんが「ここだ」と指差したお店は、軒を連ねる店舗の中でも群を抜いて高級そうな佇まいをしていた。
赤茶けた瀟洒(しょうしゃ)な煉瓦造りの建物には、誰もが知るブランド名がシルバーフレームに記されている。
店名を見た瞬間、私の顔が『ムンクの叫び』になってしまった。
鷹城さんの嘘つき! なにが大丈夫よ、どこがラフなお店よ、ここ超高級店じゃない!!
どう穿ってみても普通の女子大生が行ける場所じゃない。
敷居が高すぎる。
茫然自失になる私を、鷹城さんは無理やり車から引き摺り出した。
私は「鷹城さんの嘘つきっ!!」と叫びながら脱兎の如く逃走しようとしたんだけど、鷹城さんの動きの方が一瞬早かった。
私のズボンをガッシリ掴んだ鷹城さんは、抵抗する私の身体を抱え込み、逃げられないようにしてしまう。端から見たら、仲良さげに寄り添う二人として映るだろう。
けれど、実際は違う。
ベルトをガッシリと掴まれ無理やり歩かされる私は、さながら刑事に捕まった犯人のようだった。
そして、ズルズルと引っ張られるままとうとう店の前まで来てしまう。
私は死刑囚のような面持ちで、重々しく威厳に満ちた佇まいの店舗を悄然と眺めた。
なに、あの眩いばかりに光り輝くシャンデリア。絨毯真っ赤だし、従業員の皆様、黒服に白手袋まで着用してらっしゃいますよ。
どの辺がラフなんでしょうね? 貴方、これがラフに見えてるんですか? 頭大丈夫ですか? 視力悪いんでしたね、そのせいでしょうか。
最初のコメントを投稿しよう!