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うふふっと、35歳には到底見えない妖艶な笑みを浮かべて語るのだが、言ってることはメチャクチャだ。
「でもね、私の予想に反して結構いい男だったのよ。私の好みじゃなかったけど」
私が大好きなのはお父さんだけよ。と、「いい男」のセリフに反応して、嫉妬のあまりプルプル震え出すお父さんの頬に、お母さんは慰めるようにチュッとキスを落とすと、
「貴女、きっと幸せになるわ。私みたいに」
はんなりと穏やかな笑みを浮かべながら、母は私にそう予言した。
パーティーなんて行くんじゃなかった。
ベッドに寝転びため息を吐きながら、結局母に丸め込まれた感が否めない今の状況に、むしゃくしゃしたままふて寝を決め込む。
うっぷんを晴らすようにブツブツと文句を吐きつつ、私は事の発端である先週の出来事を思い返した。
あれは、関連会社の重役や父を含めた子会社・孫会社の社長たちを招いて行われた「内輪だけの」パーティーだった。
「……これが内輪ってレベルなのか?」
私は会場である認知度100パーセントな、知らない者はないだろうというセレブ感満載なホテルを呆然と見上げた。
吹き抜けになっている高い天井のエントランスには、綺麗にカッティングされたスワロフスキーなシャンデリアがキラキラと繊細な光を放ち、その光を受けて、磨き上げられた白い大理石の床が艶やかに輝いている。
足元に敷かれた赤いふかふかな絨毯の先には、大きな明朝風の壺に溢れるほどの生花が色とりどりに飾られていた。
――――ホント、場違い。
ふうと小さく息を吐き、キョロキョロと辺りに視線を流してみる。
ロビーで父と待ち合わせをしていたんだけど、生憎父の姿はまだ見えない。
暇だし探検しちゃおうかな。こんなホテル、きっともう二度と来られないだろうし。
そう思い、私は座っていた猫足の椅子から立ち上がろうとした。
沢山の人たちが、流れるようにして私を追い越してゆく様に目が留まる。
会場入りする煌びやかに着飾った人たちを横目に、つい、自分の姿を確認してみた。
うん。大丈夫、かな。
母が選んでくれたこのドレスも決して安物ではないが、私の横を通り過ぎる人たちが身にまとう物とはケタが違うってことは、たやすく察せられる。
まあ、今日はおいしいモノ食べに来ただけだし。
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