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「はははっ、怖いなあ。そんな顔で睨まないでよ」
そんな顔で睨むなって、そうさせてんの、間違いなくあんたなんですけど。
私はむっつり顔のまま視線を逸らした。
「ねえねえ、この後ヒマ? 良いお店知ってるんだよね、一緒に行かない?」
私の耳元に顔を寄せながら、誘惑する甘さで囁かれる軽いセリフ。
顔を背けた私の腕が掴まれる。
そして、そのまま腕を引っ張られて、私は焦った。
「勝手に触らないで」
掴まれた腕を思いきり振り払い、男を睨む。
それにしてもこのセリフ、今日何回聞いたかな。
思わず失笑してしまう。
軟派な人達って、なんでみんな揃いも揃って判で押したように同じセリフを言うんだろ。
ほんと、イラつく。
「私、もう帰りますから」
素っ気なくそう告げたら、笑顔を浮かべる彼の双眸に怒りの焔がサッと過ぎる。
私に声を掛けてきた男達、皆同じ反応をするんだなと再びため息がもれた。
声を掛けた女がちょっと自分好みな容姿で、その上お尻が軽くてお持ち帰り出来たらラッキー、くらいにしか思ってないんだろうな。
でもね、残念でした。私のお尻はメガトン級に重いんだから。
私は心の中で『べーっ』と舌を出す。
こんなふうに冷たく対応してるうちに、彼は名残惜しそうな顔ですごすごと去ってしまった。
ホッと安堵の息を吐く。
男も女も外見ばかり気にする。
親友だと思ってた女友達も、いや、かつての友達もそうだった。私を連れて歩くことで、寄ってくる男の一人を得ようと何度も私を利用した。それがイヤで誘いを断ったら、『ハデな顔で男引っかけて遊んでる淫乱女』なんて吹聴されて、総スカンを食らったことなんて数え切れない。信じては裏切られる、その繰り返しだった。
男も一緒。自分の優越感を満たすためだけに私を連れまわす。
そこに私の意思はない。
まるで、心のない人形を愛でるように私を扱う。
私がイヤだと反抗すると、手のひらを返したように罵倒された。
『顔しか取り柄のない、不感症女のくせに逆らうんじゃねえ。言われた通り、足だけ開いてたら良いんだよ』
思い出して吐き気がする。
もう、うんざり。
気分が悪いからもう帰る。そう父に伝えるため広間へと足を向けかけた時、ヨロヨロとふらつくお婆さんの姿が見えた。
あ、あぶない……!
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