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私は共感できる話だったので、知らず、夢中になって耳を傾けていた。
「そうこうしているうちに、可哀想に。孫は、今ではすっかり女性不信になってしまったの」
お婆さんは頬に手を当ててため息を吐く。
そして、その顔に憐憫の情を浮かべながら私に視線を合わせてきた。
「お嬢さんも孫と少し似てるわ。貴女はとても綺麗な容姿をしているわね。けれど、そのことがお嬢さんにとって、少なからず負担になっているのかしら」
核心を突かれて、どきっとした。
「だから、そんな言葉が出てきてしまうのでしょう? 他人は皆自分のことばかり。誰も私の心の声までは聞こうとはしてくれないって。違うかしら?」
――――その通りだった。
涙が出そうになる。
潤みだす視界を誤魔化そうと、私は瞬きを繰り返した。
「その様子だと、貴女は自分の美貌を生かして利用しようとは思わないのでしょうね。でもね、本当の貴女を愛してくれる人が、きっと現れるわ。……すぐに」
優しい言葉に、冷え切った心がぽうっと温かくなってゆく。
でも、最後に聞こえた空耳かと思うほどの小さな言葉。
すぐにってどういうことなんだろう。
淑やかに微笑むお婆さんに疑問の答えを聞こうとした時、いきなり頭上から声が降ってきた。
「お祖母さん。こちらにいらしたんですか。心配しましたよ」
聞こえてきた甘いバリトンの声に、私は振り向き、あっと声を上げた。
この男の人! シルバーフレームの眼鏡を掛けた男前。
女性達にガッチリとガードされてた眼鏡紳士だった。
「……こちらのお嬢さんは?」
不審者でも見るような眼差しで、居丈高に私を見下ろす彼の姿にカチンときた。
こんな横柄な態度をとる男が、おっとりと優しげな笑みを浮かべるこのお婆さんの孫なのかとがっかりする。と同時に、彼の無礼な態度に、生来の気の強さに火が付いてしまい、にっこりと微笑みながら目の前の男を睨んだ。
そうしたら、感情が全く見えない眼鏡紳士の表情がほんのわずかだけ崩れ、そして、次の瞬間キョトンと目を丸くした。
その変化に少しだけ気が晴れる。私は外見の美しさなんかに惑わされはしない。他の女達のように、睨まれたくらいでビビったりなんかしないんだから。
無表情を崩してやったと勝ち誇る私に、眼鏡紳士は小さく失笑した。
ムッと眉間に皺が寄る。バカにされたみたいで腹が立った。
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