3/4
前へ
/939ページ
次へ
バケツをひっくり返したような大雨が降っていた。 誰もが雨宿りをし、ひっそりとした森の中を誰かが走り回っている。 それは幼い一人の少女だった。 彼女は獣の皮で作ったマントを羽織り、首筋から顔にかけて赤色の“証”を入れている。手には太い木の枝を持ち、彼女は獣道を駆けていく。 「ルーク!」 少女が鋭い声で叫んだ。 すると、茂みから小柄な獣が飛び出してきた。 犬の形をしているが、毛並は光沢のある銀色で、鋭い眼光と牙を持つ――狼だ。 少女は軽々と、狼の背に跨った。 それからすぐに、幼い少女は狼の背から木の枝へ飛び移る。 同じ年の子供なら、まだ走るのが精一杯だろうが、彼女はまだ三歳と思えないほどの身体能力で、枝から枝へ跳ぶ。 彼女の身体能力は、先天性ではなく、育った環境によるものだった。 幼い少女は、狼に育てられ、自分も狼だと信じ切っていた。
/939ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1178人が本棚に入れています
本棚に追加