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「…もしもし?」
かなり苛立たっていた俺は、普段の倍以上不機嫌な声で電話に出た。
…が、電話から聞こえた相手の“声”に、一瞬息を飲んだ。
「…あ、松井?ごめんねこんな時間に…」
― 彼女、竹中の声だった。
「あ、いや…いいけど。何?何かあった?」
俺は動揺を隠して、冷静を装ってそう答えた。
まだ傍らには、辻野と小西がぴったりと張り付いて、俺が何か余計な事を言わないかと見張っている。
…時々、腕で×マークを作って俺に見せてくる。
「あ、うん。…あのね、小西さんの事なんだけど…」
ドクンっと心臓が脈打つ。
彼女にだけは言えない。
別に口止めされてるからじゃなく、彼女に誤解されるのだけは嫌だ。
―彼女にだけは嫌われたくない ―
「あ、ああうん。」
「…もう聞いてると思うけど…。彼女、帰って来ないらしいの。」
「…へぇ」
「松井、あの子と仲良いでしょ?…何か知らない?行きそうな場所とか…。」
「いや、…知らないし聞いてない。」
「…そっか。…………」
「うん…」
何だ、今の間は…
何か俺、ミスったか?平静を装い過ぎて、逆に不自然だったか…?
一抹の不安に、俺が襲われかけた時、彼女があり得ない程の冷たい声で言った。
「…もし、もしも連絡あったらさ、「家に連絡入れろ」って“伝えて”くれる?」
…伝えて、の所に若干の重さを加えて、彼女は言った。
「ああ、わかっ…」
ガチャ
…俺の了解の言葉を最後まで聞かずに、彼女は電話を切った。
…バレている。
何故だか判らないけど、彼女には『二人はここにいる』とバレている。
俺は受話器を置き、見張っている二人を無視してベランダへ出た。
…何でこうなるんだよ!
二人を泊める声を快諾した親にも、それを止められなかった自分自身にも、こんな事に俺を巻き込んだ二人にも…
言葉にならない怒りを自分の拳に乗せて、
コンクリートの壁を一発、思いきり殴って部屋に戻った。
俺の行動に二人は驚き、俺の殴った手を心配していた様だが…どうでもいい。
手なんか痛くない。
…胸の奧が、握り潰されそうに痛かった。
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