序章

10/10
前へ
/130ページ
次へ
「くす……」  膝枕歴11年(竹蔵専用)の桜子は、これ以降黙ってしまった。  特に喋る事も無いからだ。  二人でぼーっとして時を過ごす。  それはお互いにとって、価値ある時間だった。  酸素、二酸化炭素、窒素、明かり、時間を共にする事が、二人にとっての癒やしであった。  それが何を意味するかをお互い知らずに。 (竹蔵さん、今日はちょっと調子良いですね)  桜子は、エア絶叫の様子から竹蔵の今日の喉の良さを知った。  本当にエアに喉が関係するのだろうか。  甚だ疑問である。 (お母さんから昨日、竹蔵君とはステディな関係よねーって言われましたが、ステディってなんでしょう……)  ジェネレーションギャップである。  ABCのどこまで行った? と聞いても分からないであろう。 (お父さんはそれ聞いて泣きそうな顔してましたけど…………今度調べてみましょう。きっと悲しい事ですよね)  これは恐らく、進展の兆しであろう。  言葉による認識ではあるが、親からの言葉であるので多少の刺激にはなる筈である。 (額が広いですねえ)  桜子は竹蔵の額を撫でながら、香蔵の帰りを待つのであった。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加