序章

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 竹蔵の親が帰るのが遅い時は、桜子が竹倉家の食事を用意している。  親同士が友人であり、幼なじみで家が近いという事もあり、桜子はしょっちゅう竹倉家に出入りしていた。  そして、料理下手な桜子母のかわりに、竹倉家の母が桜子に料理を教えていた。  桜子両親は、レトルトの味が好きだった。  当然、桜子の味も好きではあったものの、合成着色料や化学調味料がばんばん入った味が好きだった。  なので、桜子は竹倉母に言った。  たまにはレトルト食べさせると喜ぶので、おばさんの帰りが遅い時は、私がご飯作ります――――と。  その台詞を「これは嫁になる予感」と勘違いをした竹倉母は、「あら、そう? おねがいねえ」と承諾。  天夢家の食卓は今宵、レトルトに侵略されるであろう。  ちなみに、天夢家に子供は桜子一人のみである。 「買い出しは昨日しましたから、ゆっくり膝枕できます」 「そこが重要か」 「はい」  買い出し料金はもちろん、竹倉家持ちだ。 「カギを入れられる扉ってどういう気持なんだろうな?」 「肩こりが治る程度じゃないですか?」  雑談をしている間に、二人は帰宅終了。  3LDKアパートの竹倉家の扉が鍵によって開かれた。  竹倉家のちょうど反対側に、天夢家がある。 「では、着替えてからお邪魔しますね?」 「おう」  一旦、二人は別れた。  竹蔵は鍵をかけず玄関で靴を脱ぎ、下駄箱に乱暴に入れた。  そのまま脱衣所へ。  脱衣所と風呂場は当然連結している。  竹蔵はタオルを用意してから、着ているものを全て脱ぎ、風呂場へ入った。  シャワーを全身に浴びる。  そしてシャンプーとボディソープで身体をさっと洗い、再びシャワー。  その間、たったの5分である。  風呂からあがり、バスタオルで全身を拭く。  バスタオルを洗濯カゴに入れて――――自室へ。  タンスからトランクスとTシャツ、そしてジャージの下を出して装着。  終わったらベッドに入る。  掛け布団は必要ない。  ただ、白い天井を見つめるだけだ。
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