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彼は心臓が凄い勢いで早鐘を打つのを感じた。その手には、文字通り大量の汗を握っていた。
クウーッと、切ない犬の鳴き声のような、間段のない甲高い音を立てて、スターターモーターが廻る。
しかし、エンジンはなかなか始動しない。
いつも一発でかかる我が家のクラウンとは大ちがいだ。
しばらく鳴き声が続いたが、不意に、ボッ、ボッっと音がして、一瞬咳き込むようにゴボゴボ唸ると、頭の後ろでいきなり爆弾が炸裂した。
エンジンがかかったのだ。
何しろ頭のわずか三十センチ後ろには、軽く三百馬力を超える、四リッターのDOHC、V型十二気筒エンジンが納まっている。
その轟音たるや、静かなクラウンとは異なり、耳を聾せんばかりだ。
男がアクセルを煽るたび、タコメーターの針が勢いよく跳ねあがり、ストンと素早く落ちる。
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