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それはまだ彼が小学生のころのことだ。
彼にとって世界は、自分の脚で歩き、自分の眼で見ることができる場所がそのすべてだった。
それが大きく変わったのは、書物と出会ったことがきっかけだったことは間違いないだろう。
しかし、書物は彼に知識を与えはしたが、そのことによって眼で見える世界が拡がったわけでは決してない。
その世界を大いに拡げたのは、親に買い与えられた一台の自転車だった。
ヤブガラシが絡みついた垣根に囲まれた、まるで幽霊が出そうな廃屋。大きな池から流れだした小川の畔。草をかき分けるとチキチキバッタが飛び出した空き地。
そんな彼の近所の王国の領地を、自転車は大きく拡大してくれた。
いつのころからか、彼の関心は、チキチキバッタやアブラゼミから自動車にかわった。
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