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それからしばらくは、ミウラを眺めるために、学校が終わると、自転車を飛ばしてそのアパートまで駆けつけるのが、彼の日課のひとつになった。
しかし、不思議なのは、その場所にいつもミウラが停まっているわけではなく、代わりにマセラティ・ギブリや、同じランボルギーニのエスパーダが停まっていたりすることだった。
堅気の職業の人間の十年ぶんの給料を、すべて注ぎ込んでも購えないような車を、とっかえひっかえ乗るなど、普通の者には到底不可能である。
車を停めているのは、おそらく外車ディーラーに関わる人物にちがいないと彼は睨んでいた。
その日も彼がいつものようにミウラを眺めていると、アパートの一室から出てきたジーンズに赤いスイングトップを羽織った、長髪の若い男が彼に声をかけた。
「なんだ小僧、おまえもスーパーカーが好きなのか?」
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