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夏ノ瀬は学習机に座りノートを広げ、似顔絵の作成にかかる。格闘すること数分。描き上がったノートのページを切り取り、夏ノ瀬はそれをテーブルの上に置く。俺達三人が覗き込むと、彼女が見たという男の顔が明らかとなった。
「これは――妖怪だな」
「どうせウチは絵が下手ですよっ!」
ああ、この俺が妖怪と認めざるを得ない下手っぷりだ。しかし、きちんと特徴は捉えている。
まず、サングラス。何故夜中にサングラスをかけているのだろう? 気休めの変装か何かだろうか。
次に、チョビ髭。鼻の下に少量蓄えられているアレだ。あんな髭をしている人なんて、俺はかの有名な喜劇王くらいしか知らないぞ。
そして、髭が見えているということは即ちマスクを付けていない。サングラスが仮に変装目的だとするのなら、マスクも欠かせないはず。となると、サングラスは変装目的ではないのか。
最後の特徴。アフロだ。夏ノ瀬作の妖怪の頭部は、何度もペンでぐるぐると描き回されている。
「なあ、これはアフロでいいのか?」
「何かそんな感じでモッサリしてた気がするだけど」
「ちなみに聞くが、こんな見た目の人に見覚えは?」
「あったら流石に覚えとると思うけど」
だよな。アフロでグラサンでチョビ髭のオッサン。そんな奴が自分の身近にいるのなら、きっと覚えているだろう。
「しっかし、ハル先輩。精螻蛄ってこんな見た目なんですね」
「ま、まあ妖怪も時代に合わせて進化してるし、現代の精螻蛄はそんな姿なのかもね」
妙な進化してんじゃねーよ精螻蛄。
まあいい。妖怪の仕業ではないと証明するために調べるべき場所は、これで全てというわけじゃない。
「となると、あとは屋根の上だな」
俺が天井を指差し言うと、燐太郎が難しい顔をする。
「いやいや、屋根に上がるの無理だろ」
ハル先輩と夏ノ瀬も頷いている。が、俺だって無策で提案しているわけではない。
「物置にあった脚立は、百八十度開けば梯子になるタイプのだ。そこのバルコニーから軒先に掛ければ屋根に上がれるだろ」
「なるほどな。しっかし、頑張るな皆人は。見直したぞ!」
「何言ってんだ燐太郎」俺は平然と言ってのける。「お前が屋根に乗るんだよ」
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