其之壱 ヤカンヅル

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「また明日部活で! あ、部室の場所わかんないよね。あの校舎の」 「そうじゃない!」  当然のように部室場所の説明を始めた彼女の言葉を、俺はやや強引に遮る。だってそうだろう。さっきから妙にニコニコしているこの先輩の言動は、どう考えてもおかしい。 「何で俺が入部扱いになってんだよ!?」 「え、違うの!?」 「違うよ! 何が悲しくて落とし穴に落とされた上脳天にヤカンぶつけた奴のいる部に入んなきゃいけないんだよ!」 「正確には部じゃないの。妖怪研究同好会。今私一人しかいないんだ」 「どうでもいいわそんなこと!」  熱くなっている俺の肩を「落ち着け」と燐太郎が叩いた。敬語も忘れ怒っていた俺は、少し冷静さを取り戻す。 「……で、何で俺が入部希望だと勘違いしたんですか?」 「だって、妖怪好きなんでしょ?」 「好きじゃないですよ。寧ろ嫌いです。何故そうなるんですか?」 「でも、知ってるんでしょ? ヤカンヅル」  知らないワードが出た。ヤカンヅル? 何だそれは。  燐太郎に目を向ける。俺の視線に気付くと、彼は困り顔で首を振った。どうやら燐太郎もヤカンヅルとやらを知らないらしい。そうなると、地元に縁のある物や言葉ではなさそうだ。 「何ですか、それ」  ギブアップ。素直に聞いてみると、どうやら俺はまた先輩の引き金を引いてしまったらしい。目の色が変わり、力説が始まる。 「ヤカンヅルは妖怪なの! 木の枝にヤカンがぶら下がっているだけの怪異。他にもぶら下がっているものが茶色い袋だったり、馬の足や首だったりって妖怪もいるんだけどね! そこで私は思いついた。ヤカンをぶら下げればヤカンヅルを知ってるコアな妖怪好きが必ず寄ってくると! そこにせっかく掘った穴を利用し落とし穴を仕掛け、足止めして勧誘する! 完璧っ!」  何なのこの人。  しかし、意味不明なものがぶら下がっているだけで妖怪扱いとは、適当なもんだな。まあ、馬の首は怖いけど。 「……でも、それならヤカンを落下させるカラクリは必要ないですよね?」  先輩はまた視線を逸らした。空を見上げて「今日はいい天気だね」と言っている。それで逃げ切れると思っているのか?
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