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汽車? 言われて俺は線路の方へ目を向ける。言われてみると、線路上部に送電線が通ってない。つまり、電力で走っているわけではないのか。それなら確かに『電車』とは呼べない。
「汽車って聞くと煙モクモク出して走るイメージがあります」
「確かにな。でもこの辺りじゃ皆汽車っていうんだ。ま、どっちでもいいんだけど」
言葉の通りどうでもよさげに話を切り上げると、茶髪は踵を返す。
「さあ、行かいで。家まで案内するけん」
……かいで? けん?
「ああ、ゴメンゴメン。方言でないように気を付けてたけど、出るもんは出るわな」
「あ、いいですよ。意味が理解できないほど訛りが強いわけでもないですし」
「そりゃあありがたいわー。……つーかさ、何で敬語?」
尋ねてくる茶髪は、何処となく困り顔に見える。何故と言われても、初対面の人にはまず敬語だろう。俺はそこまで常識のない人間ではない。
ひょっとして、彼は同い年か年下なのだろうか。見た目からして年下という可能性はないと勝手に高を括っていたが、それなら確かに敬語はおかしい。
「えっと……年いくつ?」
「十五。皆人と同じ高一で、同じ境西高に通う」
「そうなのか。色々とよろしく」
「おい」茶髪が呆れた様子で溜息を吐く。「お前、俺のこと忘れとるな?」
その通りだ。
面倒事の種でしかない俺を受け入れてくれる親戚なのだから、おそらくあったことはあるはずだとは思っていた。目前の茶髪も親戚の子であることは容易に想像できる。おまけに同い年とくれば、親戚にあった際俺はコイツと遊んだことがあるのだろう。
だが、思い出せないものは思い出せない。
「秋月燐太郎(あきづきりんたろう)だ」
痺れを切らした茶髪が、親指で自分を指し自己紹介した。ちょっと待てよ。燐太郎……あっ。
「リンちゃんか!?」
「そうだ。小三の夏休みの時、毎日遊んでやった燐太郎だ!」
何故だか自慢げな茶髪もといリンちゃん。思い出せないのも無理はない。当時の彼は坊主頭で鼻水を垂らし、虫取り網を振り回すという田舎坊主を絵に描いたような少年だったのだから。
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