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それに、あの夏休みは散々だったから封印していたんだ。大量のカブトムシを服の中に入れられたり、ジャイアントスイングで海に落とされたり、メガネを五回かち割られたり……今思い出してもおぞましい。
そんな田舎坊主が、随分と色気付いたもんだ。短めの茶髪は爽やかで、何処となく清潔感もある。背も俺より高いし、これなら気付かなくても俺を責められないだろう。
まあ、過去の記憶はいいとして、とりあえずは改めて挨拶を。
「よろしくなリンちゃん」
「リンちゃんはやめろ。燐太郎でいい」
「わかった。よろしくな燐太郎」
久々の再会に握手を交わし、俺達はようやく歩き出した。
◇
コーポ秋月。
木造二階建てのアパートで、1K風呂トイレ付。間取り図しかみたことがなかったのだが、実物はそうだな……趣がある。
「ボロいだろ?」
「ボロいな」
思わず本音が出た。まあ、燐太郎が笑ってるところを見る限り気分を害してはいないようだ。
「皆人の部屋はそこだ。一階部分の左端の一〇一号室。ほい、コレ鍵な」
「サンキュ」
受け取った鍵を指定された部屋の扉に挿す。回すとガチャリと扉が開き、三年間お世話になる部屋の全貌が露となった。
気持ち程度の玄関で靴を脱ぐと、すぐにメインである六畳間の和室が広がる。壁際に設けられた板張りスペースには最小限のキッチンと小さな冷蔵庫。荷物を置き振り返ると、そこには押入れとトイレ付ユニットバスがあるのがわかる。南向きに開放された掃き出し窓からは障子越しに春の日射しが入っている。
うん。外観は少々アレだったが、中は意外と悪くない。
「洗濯はチャリで三分のとこにコインランドリーがあるけん。若しくは家の洗濯機使ってもいいし。それから、昨日来た引っ越し業者が荷物下ろしていったけど、マジでこれだけ?」
燐太郎に問われ、俺は室内を見渡す。布団一式に自炊道具、ちゃぶ台に洋服。そのくらいなものか。
「ああ」
「随分少ねーだな。無趣味というか何というか」
「必要なものはこっちで揃える。あ、おじさんとおばさんに挨拶しないと」
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