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「今外出してんだ。それより、この町案内してやるよ。子供の頃のことなんてもうほとんど覚えてないだろ? チャリは兄貴の貸してやるからさ」
「んー、じゃあそうするか」
「決まりだな!」
ニカリと笑うと、燐太郎は自転車を取るため部屋から出て行った。世話焼きなところはあの頃と一緒だな。もっとも、アイツがあの頃の俺に焼いていたのは『余計なお世話』だけどな。
何にせよ、全く知らない町の全く知らない学校に知り合いがいるというのは心強い。せめて慣れるまでは頼りにさせてもらおう。
「準備できたか皆人ー」と、俺を呼ぶ声が聞こえる。さて、楽しいサイクリングの始まりだ。
◇
最悪だ。
町の案内として真っ先にメインスポットに連れて来られることはわかっていたはずなのに。
燐太郎の記憶と同じだ。都合の悪い記憶を片隅に押し込んでいたんだ。この町について散々調べた時、当然この観光地のことも真っ先に出て来たのに、俺は見て見ないふりをした。何故なら俺は、それが大嫌いだから。
「どうだ? ここも子供の時行ったことあるんだけど、覚えてるか?」
「ああ……思い出したくなかったよ」
境港駅から延々と続く商店街通り。そこには所々にブロンズ像が作られており、商店街の看板も、売っている物も、いや、ここら一帯にある特徴が溢れていた。
妖怪だ。
妖怪妖怪妖怪妖怪。あっちもこっちもそっちもどっちも妖怪で溢れている。その点を含めても、俺は東京よりこっちを選んだ。
そうなのだ。鳥取県境港市は妖怪の町。
俺の大嫌いな、妖怪の町なんだ。
◇
さて、ここで場面は落とし穴へと戻る。
俺に辱めを与えた張本人と思しきポニーテールの女の子は、確かに『妖怪研究同好会』と口にした。俺の大嫌いな『妖怪』というワードをだ。
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