2576人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
「燐太郎。まずは天窓周辺の写真をスマホで何枚か撮ってくれ」
「へいへい」
やる気のない返事の後、屋根の上からカシャカシャと写真を撮る音が聞こえた。俺とハル先輩と夏ノ瀬は、いい風の吹くバルコニーで姿の見えない燐太郎を見上げている。
揉めに揉めた結果、結局屋根に上がるのは燐太郎の役目となった。最終的には運動神経のいい燐太郎の方がもしもの事故に繋がる可能性が少ないことが決め手となった。代わりに俺は運動音痴というレッテルを貼られたわけだが。
「写真撮ったぞー。次は何がお望みだ?」
「秋月君! 屋根に引っ掻き傷とかない!? 精螻蛄の手は三本指で、鋭い鉤爪が」
「ハル先輩の言うことは調べなくていいぞー」
「ちょっと! 妖怪捜査の邪魔しないでよ!」
「これは妖怪じゃないことを証明するための捜査です」
「け、喧嘩したらいけんよっ!」
「気にすんななっちゃん。いつものことだ」
屋根の上から燐太郎が夏ノ瀬に助言した。いつものことだから困っているのに、お前はいつでも笑ってるだけだもんな。
「あー、ハル先輩。引っ掻き傷らしきものはないっすよー」
「んなもんどうでもいいから、屋根の上に変な物があったら持って下りてきてくれ」
「へいへい」
その後燐太郎はしばらく屋根の上を右往左往し、俺が支える梯子を使いバルコニーに降り立った。
「ご苦労さん」
「いやぁ、いざ上ってみたら景色綺麗で結構よかったぞ」
それは何よりだ。俺は上らないがな。
「秋月君、指から血が出とるで!」
「ん? ああ、ちょっと引っ掛けてな」
「大変! 今救急箱取ってくるけん、部屋で待っとって!」
燐太郎の右手人差し指からは確かに血が出ているが、大した怪我じゃない。唾をつけとけば治るレベルだ。燐太郎自身も「大袈裟だなー」と笑っている。
「見ましたかハル先輩。今のが女子力です」
「……何が言いたいの?」
「別に」
さあ、夏ノ瀬の部屋に戻ろうか。
最初のコメントを投稿しよう!