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妖怪嫌いの癖に妖怪の町へ来てしまった俺であるが、対処法は難しくない。妖怪に関する物事に関わらなければいいのだ。何と簡単な話だろう。だからこそ、俺はそんな同好会には断固として入らない。
「とりあえず、ここから出してもらえます?」
襟元で輝く組章に『Ⅱ‐2』と刻んであったので、一応敬語で頼む。何分この穴は異様に深く、一人で出るのは骨が折れそうなんだ。もし気分を害し逃げられでもしたら、俺は大勢から好奇の目に晒され穴があったら入りたい思いをすることになる。
まあ、もう穴には入ってるんだけどな。
「そうだね。はい、掴まって!」
差し出された華奢な手を掴む。白木の枝のように細いその腕は、ふとした拍子に折れてしまいそうでこっちがヒヤヒヤしてしまう。そんな腕で奮闘していた彼女であったが、やがてフッと力を抜くと俺から手を放した。
「ごめん。無理」
「ふざけんなっ!」
投げつけたヤカンが頭に当たり、彼女は「ぐへぇ」と女子らしからぬ声を漏らし倒れる。その際穴の中にポニーテールがだらんと垂れてきたので、俺はそれを両手で掴んだ。
「もういい! 自力で出る!」
「いたたたた! ちょっと、女の子の髪を何だと思ってるの!?」
「今の俺にはロープにしか見えん! ロープ代わりが嫌なら他の脱出方法を考えろ!」
「わかった! わかったから!」
理解したようなので髪から手を放すと、彼女はすぐさまその場から逃げていった。
いかん。女の子相手についつい怒ってしまった。勿論髪は本気で引っ張っていないが、あとで謝るべきだろうか。
……というか、彼女はこの場に戻って来てくれるんだろうか?
「お待たせー」
どうやら余計な心配だったらしい。俺を見下ろす形で穴を覗き込む彼女。その隣には、見知った男の顔があった。
「だっはっは! 穴に落ちた間抜けってお前かや!」
茶髪の親戚・燐太郎は一頻り笑うと、俺に手を差し伸べ軽々と引き上げてくれた。見た目より力があるなコイツ。中学時代に何かスポーツでもやっていたんだろうか。
「サンキュ」
服に付いた土を叩きながら礼を言うと、燐太郎は「気にすんな」とカラカラ笑った。
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