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六畳ほどの若旦那の自室は、男性にしては片付いている。
本棚には経営学の本などが並び、その一角に花の鉢植えを抱えた女性の写真が飾ってあった。
独身ではあるが恋人がいるのかもしれない。
窓には生成りの味気ないカーテンと、シャツがブラ下がっている。
その部屋に服部と、騒ぎを聞きつけてやって来た安藤、その二人の前で土下座する女将と若旦那がいた。
桔梗の間では、騒音がひどくて話などできる状態ではなかったので、若旦那の私室へと場所を移したのだ。
「頭を上げて下さい。お話を聞きたいんです」
安藤が言うと、二人はそろそろと顔を上げた。
どちらも唇をきつく噛んで、申し訳なさそうな表情をしている。
「我々の部屋に、何の用だったんでしょう」
服部が聞いた。
だが予想した通り、若旦那は口をつぐんでいる。
そんな様子の息子を見て、女将がもう一度額を畳にこすりつけた。
「申し訳ございません! お客様が就寝中のお部屋に無断で忍びこむなんて……どんな理由があろうと許されることではありません」
若旦那も再度、頭を下げる。
「その理由をお聞きしたいんです」
服部の落ち着いた声に、女将は「どうしてなの? 言いなさい」と小声で息子を促した。
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