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若旦那はそれでもしばらくは逡巡していたが、やがて
「その……ピ、ピストルを……ピストルを見たくて……」
と呟いた。安藤が「はっ?」と思わずもらす。
「ペッ、ペストル……!」
女将が仰天して、今度は一転体を後ろにのけ反らせた。
「あ、あの……警察の方ならみんなピストルを持っていらっしゃるかと思って……。その……一度本物を見てみたかったんです……。申し訳ありませんでした。出来心なんです」
若旦那は何度目だかわからない土下座をした。
隣でワナワナ震えていた女将が「バカバカ! この大馬鹿者!」と言って、背中を丸めた若旦那をポカポカ叩き出した。
「いたたた! ゴメン! ゴメンよ!」
若旦那はひたすら謝るだけだ。
安藤が慌てて止めた。
そんな様子を服部はジッと見ている。
「ホントに……申し訳ございませんとしか言いようが……! よく話し合いますので、どうか、どうか寛大な処置をお願い致します」
女将が涙声で懇願し、安藤も困ったような顔を服部に向けた。
どうしましょう、とその目が言っている。
少し考えたあと
「今回のことを知っているのは俺と、この安藤だけです」
と服部が言った。
「厳重注意……今回はそれで」
それを聞くと、親子は顔中の筋肉を一気に緩ませて、はあーっと大きな息をはいた。
そしてまたペコペコと頭を下げ、何度も何度も礼を述べた。
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