第1章

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若旦那はそれでもしばらくは逡巡していたが、やがて 「その……ピ、ピストルを……ピストルを見たくて……」 と呟いた。安藤が「はっ?」と思わずもらす。 「ペッ、ペストル……!」 女将が仰天して、今度は一転体を後ろにのけ反らせた。 「あ、あの……警察の方ならみんなピストルを持っていらっしゃるかと思って……。その……一度本物を見てみたかったんです……。申し訳ありませんでした。出来心なんです」 若旦那は何度目だかわからない土下座をした。 隣でワナワナ震えていた女将が「バカバカ! この大馬鹿者!」と言って、背中を丸めた若旦那をポカポカ叩き出した。 「いたたた! ゴメン! ゴメンよ!」 若旦那はひたすら謝るだけだ。 安藤が慌てて止めた。 そんな様子を服部はジッと見ている。 「ホントに……申し訳ございませんとしか言いようが……! よく話し合いますので、どうか、どうか寛大な処置をお願い致します」 女将が涙声で懇願し、安藤も困ったような顔を服部に向けた。 どうしましょう、とその目が言っている。 少し考えたあと 「今回のことを知っているのは俺と、この安藤だけです」 と服部が言った。 「厳重注意……今回はそれで」 それを聞くと、親子は顔中の筋肉を一気に緩ませて、はあーっと大きな息をはいた。 そしてまたペコペコと頭を下げ、何度も何度も礼を述べた。
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