第1章

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そこに昼間、部屋まで案内してくれた中年の仲居が通りかかり、服部の姿を見ると一瞬驚いた顔をした。 が、あたりを見回して他に誰もいないのを確認すると、ソソッと近づいて来た。 「まだ起きておいででしたか」 「はい」 短く返事を返すと、仲居は顔をズイと近づけてきた。 「あのぅ、若旦那さん、何かやらかしましたか」 まったくこの手の話は、どうしたらこんなに早く広まるのかと思うくらい早い。電光石火の早業だ。 だが服部たちが、項垂れた若旦那と共に部屋へ入っていくのを何人かの仲居が見ていた。 何かあったと思うのは当然かもしれない。 「大したことじゃありません」 「そーお?」 仲居はちょっと不満そうに首をかしげた。 簡単には引き下がりそうにないので、服部は話をはぐらかす意味で聞いてみた。 「ところで、俺たちの部屋に御札が貼ってあったけど」 仲居は、あらっ! と大げさな仕草で顔をしかめた。 「見つけちゃいましたか。いつもは空き部屋にしてるんですが、今日は団体様がおいでなので満室だったから……。 でも刑事さんたちなら気にしないかと思って割り当てさせてもらったんですが……ごめんなさいね」 「別に構いませんが、何かあるんですか」 仲居はちょっと言いづらそうにマゴマゴした後、実はねぇと切り出した。 「見た……っていう人が何人かいるもんで……まぁ御札は気休めですけどね」 やっぱりそうなのか、と頷いていると 「ここの仲居をしていた子でね。康子ちゃん、ていうんですけど、三年前にあの部屋を掃除していて、突然心筋梗塞を起こしちゃって。それから年に二回くらい、あの部屋に出入りする康子ちゃんを見た、っていう子が現れて……」 と沈痛な面持ちになった。
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