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箱根に向かう貸し切りバスの中は、すでにお祭り騒ぎが始まっていた。
前方の席を陣取った警部補たちが、早くも缶ビールを次々に開け、馬鹿笑いをしながら恐るべき勢いでカラにしてはそれを後ろにポーンと投げ捨てる。
先輩の巡査部長は、中央あたりの座席に立ち上がって調子っぱずれの歌を実に気持ちよさそうに熱唱している。
周りでそれをはやしたてる巡査が五、六人。
一番後ろの席で、たまに飛んでくるビール缶を受け止めながら煙草をふかしていた服部に、隣に座った後輩の安藤巡査が声をかけてきた。
「あの、先輩」
不安げな声だ。
「僕、慰安旅行は初めて参加するんですけど……凄いですね」
「まだ行きの車内じゃないか」
また一つビール缶が飛んできて、安藤の頭に当たった。
「言っとくけど俺たちは酔うなよ。しらふを貫け」
服部の言葉に、安藤は頭をさすりながら不思議そうな顔をした。
その時、若い女性添乗員のキャア!という甲高い悲鳴が聞こえたので目をやると、顔を真っ赤にした佐々木警部補が楽しそうにちょっかいを出している。
いくつなの? この仕事長いの? どこに住んでるの? 今度一緒にご飯でもどう?
最後を除けばまるで職務質問のようだ。
女性はとうとう半ベソをかきだした。
安藤が唖然と口を開ける横で、服部は三つ目のビール缶をキャッチした。
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