第1章

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紡ぎ屋の自慢の一つが、富士山が望める露天風呂だ。 小さくではあるが、それでも富士の美しい輪郭を眺めながら浸かれる湯は、格別な満足感をもたらしてくれる。 ジッとしているだけで滲み出てくる汗を流そうと、服部たちはその露天風呂へ向かった。 天然岩で囲まれた浴槽は二十人以上がいっぺんに入れそうな広さで、子供だったら間違いなく泳ぐはずだ。 温度は四十二度で、夏ということを考えると少々熱いがそれでも体に染み入るようで、佐々木からは「うおおお~……」という、獣に似た唸り声が漏れる。 「極楽極楽。源泉垂れ流しって最高だな」 と目をつぶって悦に入っている。 「源泉かけ流しです」 さり気なく修正したが、聞いていないようだ。どうでもいい。 若い男性の先客が三人ほどいたが、服部のようながっちりした体つきの男たちが入って来たのを見て、コソコソと広い浴槽の隅っこへと移動していった。 さらに服部の右腕のえぐれた傷痕を見るとギョッとした顔をして、あたふたと浴槽から上がってしまった。 直後、他の部屋の連中が一斉にドヤドヤと入ってきて、逃げるように出て行こうとしていた三人組を再び押し戻してしまった。 前を隠そうともせずに堂々と入って来るむくつけき大男集団に圧倒され、三人組はもう一度湯の中に落とされた。 さらに取り囲むように周りを固められ、肩を寄せ合って震えていた。
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