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【亜紀子の息子 学の話】
前世で、僕は死ぬ間際に太陽にお願いしたんだ。
亜紀子の側にずっといれるようにって。
太陽は願いを叶えてくれた。
僕は、亜紀子の息子という形で。
文鳥から新たに生まれ変わったんだ。
僕は、生まれてからずっと幸せだったよ。
大好きな亜紀子に、
生まれた時から抱きしめられ
どんな時も、僕のことをずっと考えてくれて。
大好きな人が、僕だけの為を考えて生きてくれるという事を知って。
僕は、生まれて初めて。
愛って与えるだけじゃないんだ、って事を知ったんだ。
愛されることの喜びを知ったんだ。
毎日、毎日。彼女は僕にありったけの愛情を注いでくれた。
やがて、僕は。
彼女が僕を愛してくれることを当たり前のように思うようになってしまった。
でも、ある日。
あの男が亜紀子の前に現れてから。
「ヨシヒコ君」、って亜紀子は毎日呼んでいたっけ。亜紀子より10才離れていると聞いたよ。
細くて、白くて。茶髪の青年だった。
普段は温厚な表情を見せていたけど、時折鋭い眼差しで僕を見ることがあった。
オレタチノジャマスルナ
そう、顔に書いてあった気がしたんだ。
僕は警戒していたけど、亜紀子はとても嬉しそうだったから。僕は、静かに見守るしかなかったんだ。
そして、彼に懐いているフリをして
こいつが一体何者なのか、探りを入れていたんだ。
それにしても、文鳥だろうと。人間だろうと。
結局、僕の立場は何も変わらなかったよ。
二人が仲睦まじくしている光景を、僕は何も言わずに指をくわえて眺めるしかなかったんだ。
僕の生活は少しずつ変わっていった。
「ヨシヒコ」という男が現れてから。
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