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そして今、我が家の庭から毒物が検出された。
「犯人が逃走する際に捨てて行ったか…………何か盗難された後は?」
「今のところありません」
「そうか……外部犯の可能性は低いな」
無精髭を生やした中年の男刑事が、顎を撫でながらそう呟く。
「誰が……誰が母さんを殺したんですか!刑事さん、犯人は捕まるんですか」
僕の言葉に困ったように、刑事は頭を掻いた。
「何しろ証拠が少なくてね……でも大丈夫。おじさんたちが必ず犯人を捕まえるからね」
何の根拠もないのに。そう呟いたが刑事には聞こえなかったようだ。
唇を噛みながら、僕は忙しく動き回る捜査官たちに目を向けた。
あんなに綺麗に整頓されていた家の中が、荒らされていく。貪るようにタンスを開けられ、棚に几帳面に並んだ本の順番を変えられ。
もう耐えられなかった。
「あ、ちょっとヒロキ君!」
呼び止める刑事を背に、僕は家を駆け出した。紺色の人混みを押し退け、一目散に外に飛び出す。
犯人が憎かった。母さんを殺し、僕の生活を奪ってもなお、のうのうと生きているのかと思うと殺意が芽生えた。
二日間枯れていた涙が、今になってまたこぼれ始めた。
体を動かしていないと、崩れてしまいそうだ。僕は自分の感覚だけを頼りに、一目散に走った。宛は無い。どこまでも走り続ける。
──つもりだった。
前を向かずに走っていたせいか、突然柔らかいクッションのようなものにぶつかった。
「うわっ!」
ずっと前方向に働いていた力が、後ろに弾き返された。
「痛てて……」
盛大に尻餅をついた僕の目の前にいたのは、母が殺された日に出会った、ショートヘアーの少女だった。
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