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少女は苦い顔で、へたりこんだ僕を見下ろしていた。
それにしても──僕とぶつかったはずなのに、彼女はびくともしていない。僕が前のめりに走っていたせいもあるが、とてもその容貌からは見てとれない強い芯を持っているのだろう。
「あ、いやその、全然前見てなくて……すいません」
何故僕が明らかに年下の少女に向かって敬語を使ったのかは分からなかったが、彼女はただ者ではない。肌がそう感じた。
少女は何も語らない。初めて会ったあの時のように、威嚇した眼差しを見せるだけ。
やがて少女はくるりと僕に背を向けた。
呆気に取られていた僕だったが、去っていく後ろ姿に、一つの名前が浮かんできた。
「アリシア……」
ぴたり、と少女の動きが止まった。
「ネットで噂の、アリシアか?」
「ありしあ?なーにそれ?」
その音色は高くて明るい、いかにも少女じみたものだった。
どうして僕が彼女をアリシアだと思ったのかは分からない。でも、確信があった。この殺伐とした雰囲気、あどけなさを残しつつも力強い瞳。
彼女こそが殺人鬼アリシアだ。
そう思うと心臓が高鳴った。興奮しているのだ。握った拳の中はすっかり汗をかいてしまっている。
「ごめんなさい、その人のことは知らないの」
少女は、本当にアリシアのことを知らないように見えた。もし今の僕に沸き起こる自信が無ければ、到底これが演技だとは疑わなかっただろう。
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