僕と少女と殺人現場

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でも違う。彼女はアリシアだ。もう半年間に渡って逃亡を続けている。そのくらいの才覚を持っていてもおかしくない。 「そっか……知らないんだね、ごめん。それにしてもよくアリシアが"人"だってことが分かったね。僕はまだ"ネットで噂のアリシア"としか言っていないのに」 チェックメイト。ルークがキングの前に立ちはだかった。 「……ふっ。わしのことをアリシアだと言ったのはアンタが初めてじゃ」 その口調はどこか訛っていて、こんな小さな子が使うようなものではなかった。しかし口調のあどけなさは、彼女がまだ幼いということを隠さなかった。 僕は勝ったのだ。見てくれはどんなに幼かろうとも、口攻めで白旗を上げさせたのだ。 とはいえ、この女の子は世の恐れる立派な殺人鬼だ。こんなにあっさりと物事が進むはずがない。もっと話がこじれると考えて手札を用意していたのに、それらを使わずして勝負が決まってしまった。 その事実に、今さら気づく。先程とは違う汗が流れた。 ──殺されるのだろうか。口封じのために。 そう考えると途端に足元がおぼつかなくなってきたが、少女は笑顔だった。人を殺める狂気じみた笑いではなくて、心から嬉しそうな──まるで初めて自転車に乗れた時のような、屈託のない笑顔。 「アンタの母親を殺した犯人、知りたくないかの?」 だからこの言葉にはびっくりした。 同時に、逃げようとしていた自分の気持ちに火が灯された。 彼女は何か知っているのだろうか。まさか母さんが殺される現場を生で目撃したのだろうか。 ──母さんを殺した犯人を突き止められるかもしれない。 復讐が出来る。何しろ殺しのスペシャリストが僕の手助けをしてくれるのだ。 再び握り締めた手のひらに、伸びた爪が刺さる。その痛みでハッと我に帰ると、自分の口元がにやけているのを感じた。 「アンタ、危険な男じゃの」 殺し屋に苦笑されながら、僕は立ち上がった。
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