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走った。ただひたすらに走った。いつもはゆったりと歩いて向かうその場所へ向かって。
僕の目がえんじ色の屋根を捉えた。そこへ目掛けて一目散にダッシュする。入口の前で急ブレーキを掛け、お菓子の並んだ店内へ飛び込んだ。
「………ッハア……ッ……ま、まつおばちゃん!」
反応は無い。僕には返事を待っている余裕も無かった。
思い切り店の奥の障子を開けた。薄暗いその部屋には、煌々としたパソコンの光と………
「まつおばちゃん!」
「なんじゃあそんなに慌てて」
赤い大きな老眼鏡をかけ、正座したままマウスを握っているまつおばちゃんがいた。
まつおばちゃんはいつもインターネットを介して売りに出すお菓子を注文している。店内に最新のお菓子が並んでいるのは、そのお陰でもあるのだ。
「おばちゃん、今すぐここから逃げよう」
まつおばちゃんはきょとんとして僕を見つめていたが、やがて「いやじゃ」と首を振った。
「ここは死んだじいさんが大切にしとった店じゃ。そう簡単に手放すわけにはいかん」
「でも今は僕の言うことを聴いて!でなきゃ……」
アリシアに殺されてしまう。
川に置き去りにしてきたが、彼女のことだ。すぐに追ってくるに違いない。
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