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ギラギラと音がしそうな太陽だ。
夏真っ盛りのこの季節。テニスは小学生からやっていたのでテニス部に入ったものの、インドア派の僕にとっては痛い光である。
アスファルトの地面が、部活で疲労した脚には辛い。とぼとぼと、落ち込んでいるのかと思われるような足取りで歩を進める。
徒歩通の僕は、帰りにいつも寄っているところがある。
少しずつ、目印のえんじ色の屋根が見えてきた。その建物には『まつもとや』という、辛うじて文字が読み取れる廃れた看板が貼ってあった。
「おばちゃん」
僕は開放されたままの入り口の前に立って、そう呼んだ。僕の声が、家の中に綺麗に並べてあるお菓子たちに吸い込まれていく。そしてまた、静かな店内に戻る。
建物自体は古く朽ちているが、隅々まで掃除を施されている店内は、とても生き生きとしていた。
「まつおばちゃあーん!」
大きく声をあげると、しばらくして「はいよ」と返事が聴こえた。ミシミシと、古い木の床を鳴らしながらこちらに来ているのが分かる。
ガララッ。お菓子の並んだ部屋の奥から、古いガラス戸を開けてまつおばちゃんが現れた。おばちゃんといっても彼女は還暦をとうに過ぎている。
僕はいつも部活や学校の帰りに、ここを訪れる。もう日本中探しても数少くなった駄菓子屋の一つ、「まつもとや」を訪れる。
他の客はいつもいない。それでも賞味期限切れの商品は無く、最新のお菓子やレトロなものまで、いつも綺麗に並べられている。値段も主張することはなく、どれも小学生の財布でも払える金額だ。
「さあ、今日はどれを買いに来たんじゃ」
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