僕と少女と新聞記者

19/21
前へ
/98ページ
次へ
「悔しくないのかよっ……その女のことはよく知らない。でも、それじゃお前はただの駒だ。棋士の命令でしか動けないなんて、それじゃまるで……」 泣き崩れた。急速に縮まった僕とアリシアの距離が、急速に剥がされた。晴天と反比例して、僕の中で大量の雨が降る。 ポン。優しく肩を叩かれた。 「頼むから……分かってくれ……。わしの運命なんじゃよこれが。死んでも同然だったわしの命じゃ。無駄死にじゃない。誰かのために犠牲になれるなら、わしは十分幸福者なんじゃよ」 ぐっと、そのまま強く肩を握られる。嘘だ。だったら何で、そんなに体を震わせているんだ。だったら何で、涙を必死に堪えているんだ。 アリシアは誰も殺していない。彼女はむしろ被害者の方だ。彼女自身の心を殺されて、傭兵として生きさせられる。そんなの、殺人と同じじゃないか。 その女を、強く恨んだ。恨みの感情を抱かないと、全部涙になってしまいそうだった。 「…………少し離れておいた方がええかもしれんの。わしと、ヒロキは」 「何言って…………」 嫌な予感がした。ゆっくりと顔を上げた。目の前に人の姿は既に無く、ただ平凡な住宅街が広がっていた。 いない………… 地面には、アリシアが武器や道具を取り付けて腰に巻いていた、ロープが落ちていた。そっとやさしくそれを拾う。 このままもう会えないのだろうか。分かっていた。元々僕とアリシアは生きる世界が違う。そんな二人が巡り会えたこと自体、奇跡なのだ。それ以上を求めても無駄なことくらい、僕には分かっていた。 強く拳を握る。そのまま力無くアスファルトの地面に打ち付けた。 人が出会い、そして親交を深めるのはとても難しいし、多くの時間を擁する。だがいくら高く積み上げた材木も、どこか少しでも押されただけで崩れてしまう。別れは、一瞬なのだ。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加