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手に感じる冷たさは、僕の中に温もりを与えてくれた。
「じゃ、バイバーイ!」
「気をつけてな」
軽くスキップ調で店を出る。先ほどまでギラギラしていた太陽が、今はなんてことない、大きな光のかたまりに見える。
溶けそうなアイスをかじりながら、ゆったりと家へ帰る。最高の時間だ。今日は何故かあまり家に帰りたいと思わなかった。ぶらぶらと、こうしてずっと続く道を歩いていたい。
そんなことを考えていると、目の前に小さなシルエットが現れた。
マッシュルームみたいな黒いショートヘアの女の子。赤みがかかった大きな瞳で、こちらを見つめていた。
思わず歩みを止める。女の子は動こうとしない。
「なっ……何してるの?こんなところで」
思いきって声をかけてみたが、女の子は反応しなかった。それどころか、警戒の眼差しでこちらを見つめている。
彼女は制服を着ていないので、学校の帰りではないようだ。随分と使い古されている薄ピンク色のブラウスに、紺色のスカート。近くの公園で遊んでいたのだろうか。
「君、お母さんかお父さんは?」
女の子に向かってぐっと一歩踏み出し、近付こうとした。すると女の子は僕と同じ歩幅の分だけ、後ろに引き下がった。
そして僕に背後を見せないまま、素早い身のこなしでその場を去っていった。
「あ……ちょっ……」
女の子の姿はもう見えなくなっていた。
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