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ものの数分歩くと、立方体のベージュの建物にたどり着いた。「やなかわ新聞」と書かれた看板を掲げた、真新しい建物だった。
この辺りは田舎の街、といった感じだ。特別高層ビルが建っているわけではないが、スーパーや郵便局、雑貨屋など、この近辺に住む人々の経済の中心であるようだった。
「こっちこっち」
田沢の後に付いて、自動ドアをくぐり抜ける。社内に入った瞬間、冷たいエアコンの空気が僕を涼ませた。
田沢はそのまま二階へと続く階段を上がった。一階にいる人々の視線が何事かと疑問を抱いていたが、気にせず僕も階段を上がった。
二階は、いわゆる接待スペースだった。大きな黒いソファーが部屋の中央に机を挟んで置いてある。印刷機が部屋の角にあるところ、新聞社らしい。
「まあまあ、ここで待ってて」
僕が進められた通りソファーに座ると、「ちょっと呼んでくるから」と田沢は部屋を後にした。ここに来て緊張してくる。大丈夫だ、手はずは整っている。
大きく深呼吸をすると、少し気持ちが楽になった。しかしガチャッとドアの開く音がして、再び表情を強張らせた。
「連れてきたよ!」
開いたままの入り口から、コツコツとリズムの良い音が聞こえてくる。足音と共に現れたのは、黒い帽子を深く被り、大きな茶色いサングラスに真っ赤な唇をした、スタイルの良い女性だった。
「お、お前は……!!」
その姿は確かに見覚えがあった。僕がベンチに座ってカツさんを見張っていた時、突然横に座って僕を翻弄してきた女だ。
「久しぶりね。調子はどう?」
「ふざけるな!アリシアを解放してやれ!!」
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