僕と少女と殺人鬼

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この二人にどんな因縁があるのか分からない田沢は、あたふたと辺りを見回していた。 「あらあ随分と威勢のいいこと。まあまあ気持ちは分かるけど、大人しく座ってお話しましょうよ。田沢さん、席を外して下さるかしら?」 はいっ!と潔く田沢は出ていこうとした。あれだけ僕にしつこく付きまとって来た彼が、あわよくばとても貴重なスクープが撮れるかもしれないこの対談を簡単に諦めるものなのだろうか。 「それから田沢さん。この机の上にある灰皿を引いてちょうだい。私も彼もタバコを吸わないし、何よりこの中に埋め込まれたおもちゃが邪魔ね」 「お気づきでしたか……」 田沢がしぶしぶといった表情で灰皿を取り下げる。なるほど、この灰皿の中にボイスレコーダーでも仕組んでいたのだろう。やけに諦めのいい理由はこれか。 しかし盗聴されていることまで見抜くなど、アリシアを育てただけあってこの女もただ者ではない。 パタン、とドアが閉まる音と共に、試合開始のゴングが鳴った。お互いに目を合わせる。女は僕の威嚇にも動じず、冷めた目で応戦してくる。 「さあ、これで邪魔するものは何もないわ。ゆっくりとあなたの声を聞きたいものね」 お互いにソファーの中央に腰を下ろして、対面する。 「お前だったんだな……今思えば変なことだ。僕がアリシアと同行していることを知っていたし、まるで僕がアリシアと離れるように仕向けていた。早く気づけば良かったよ」 ベンチで隣に座ってきたこの女は、僕に「あなたは悪くない」と何度も吹き込んだ。 あの言葉の異図ははっきりとは掴めないが、僕を苦しめたのは事実だ。 「鈍感な男ねえ。てっきり気づいてるものだと思ってたわ」
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