僕と少女と殺人鬼

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女は立ち上がって、近くにあったコーヒーメーカーでコップにコーヒーを注ぎ始めた。 「アナタはコーヒー飲めるのかしら?砂糖は多め?」 「馬鹿にするな、僕はいらない」 あらそう、と再びソファーに座る女。コーヒーを一口すすった後、口を開いた。 「アナタ、さっきあの子を解放してやれ、と言ってたわね。でもそれは少し間違っているわ。あの子は自らの意思で殺人鬼を演じているのよ」 「嘘だ!あいつは……お前が情報を流したことが分かった時、泣いてた。あんなに強いアリシアが。泣いてたんだ」 ふーっと女がため息をついた。心なしかイラついているように見える。コーヒーカップを持った指が、しきりにその縁を叩いている。 「だからアナタとは居させなくなかったのよ……せっかく感情をコントロール出来るように鍛えたのに。あの子、アナタに情を持ってしまったのね。一人で生きられるように育てたのに何で連れなんか…………まあいいわ。だったらなおさら、今が資金の稼ぎ時ね」 バン!!僕は机を思い切り叩いた。アリシアが僕に親しみを抱いてくれたのはこの上なく嬉しい。それだけに、アリシアを自分勝手に改造して、思いを踏みにじったこの女が許せない。 「あいつはロボットじゃない。お前がいくらプログラミングを施したって、人の心を失うことは絶対に無い」 僕と少女が出会ってから数週間。彼女は何度も人間味を感じさせてくれた。怒り、笑い、悲しみ、そのどれもがコントロールされた感情だとは、とても思えなかった。 「あら、ご達者ね。一体あの子の何を知っているのかしら?残念だけどあなたが接したアリシアとやらは、私が数年間育てた箱入り娘よ。数週間行動を共にしただけのアナタとは違う」 痛い。子供相手だろうが関係ない。その容赦ない言葉の数々が、どれも胸に刺さって抜けない。 トドメの刃が僕を襲う。 「アナタは自分の感情を押し付けているだけ。アナタの望んでいる理想の未来は、本当にあの子にとっても理想なのかしら?」 女が不敵に笑う。口元を吊り上げて、不気味な笑顔だ。
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